「て〜んぽー」

途中で会ったヤツに許可印を求められたがそんなもん持ってないので天蓬の判を貰いにやってきた。
こんなのにオレの判を押しても意味が無いことこの上なし!面倒事は副官の仕事っしょ♪

「ま〜たトリップしてんのかぁ?」

最近本を買ったと言っていたから読み耽ってると思い中に入るとそこには本棚にしがみ付いているがいた。
視線の先にオレを見つけるとにっこり笑って…って、んな場合か!?

「やっほー…捲兄…」

予想通り本棚がバランスを崩しが踏み台から足を滑らせた。

「…あぶねっ」

気付くと俺は自分の背で本棚を受け止めを片手に抱き床への落下を防いだ。
なんとかの後頭部をかばえた事に一息つく。
…にしてもさすが天蓬の本棚。重いわ…コレ…。
腕に抱いたをゆっくりと体から離す。

「怪我ねーか?」

定まらない視線に一瞬不安を感じた。
普段と違うその空ろな表情が更に不安を募らせ自然と声に力が入る。

「おい!大丈夫か?」

俺の声にゆっくり反応し、少し遅れての声が返ってきた。
驚きからかその声は僅かに震えている気がした。

「あ…大丈夫…って捲兄こそ平気!?」

が俺の背に視線を移しもぞもぞと体を動かし始めた。
何とか抜け出そうとしているのだろうが、オレは今片手腕立て伏せ状態で体重が半分に掛かってる。そこから抜け出そうというのはにはムリな話。

「オレの事はいいから!」

その声に弾かれる様にが一瞬大きく目を見開いた。
ふーっと溜息を付いて目の前のを見る。
そういやこんな至近距離でコイツを見ることは滅多に無い…つーか初めてか?出会ってすぐの頃はまだまだガキ臭かったが、今じゃすっかり人気急上昇の歌姫。
可憐さに色気が加わってきたとかで西軍のヤツラも色めき立ってる。
何処が!?と思ったりもした。
まぁ確かに前から整った顔ではあった。
印象に残ったのは…やっぱ目かな…コイツの場合。
じっとその目を見ていると急にの目が潤み揺らぎ始めた。

「ごめんね…」

小さな口から漏れた言葉。その表情がなんとも言えず色っぽい。

「そんな顔…すんなよ…」

無意識に笑ってしまったかもしれない。
はそういう対象じゃないと思った…はず。
オレはの頭をそっと床に降ろし両手をの両脇についた。
そして視線を合わせたままゆっくりと顔を近づけて行く。
はただただ目を丸くしてオレの目を見ていた。
なんかスゲー後ろめたさ感じる…。それでも勢いは止まらない。
あとちょーっとという所で部屋の主の声が聞こえた。
しかもその声は異常に冷たい。

「二人とも、人の部屋で何してるんですか?」

「天ちゃん!捲兄助けてあげて!」

の心配げな声を胸に受けつつも後頭部には氷の刃のような視線が痛い。
無意味とも思いながら視線を天蓬の足からずらす。

「天ちゃん、捲兄私を助ける為に本棚の下敷きになっちゃったの!!」

「それはそれは…」

言うと同時に目の前のの手を取りあっという間にオレの視界からが消えた。
それと同時に俺の背になにやら重いモノがのった。

「ぐえっ」

反射的に声を上げるオレを無視し天蓬はと話をしている。
おいおい…このままか?

探していた本はありましたか?」

オレに向けられた視線とはうって変わった暖かい言葉。
その暖かい言葉とは対照的にどんどん俺の背中に掛かる体重…コイツ今何キロだ?

「え?あ、うんあった!」

「お貸ししますよ。あぁそうだ。さっき金蝉がを探していましたよ。」

「え゛・・・」

「一応軽いフォローはしたつもりですが、あとは頑張ってくださいね。」

側にあったの足がパタパタと音を立てて動いた。

「ありがと天ちゃん!じゃあこれ借ります!捲兄、助けてくれてありがと♪」

その声が無くなると同時に背中に急激な重みを感じ震える腕を必死で支えた。

「て…てんぽ…」

必死で声を振り絞るが背中の人物は平然と応えた。

「さて、本でも読みましょうか。新刊この辺にありましたよね…。」

コイツが本を読み始めたら読破するまで動かない!俺は力の限り名を呼んだ。

「てんぽー!」

悲鳴のような声も気にせず背中から本をめくる音が聞こえる。俺は天蓬に状態を訴えた。

「重いんですけど…。」

それに返ってきた言葉はいつもよりも痛い。

「当たり前です。わざとですから。」

更に重みを増し支えきれなくなった腕がつぶれると床に顔をぶつけた。それでも副官の言葉はシビア…。

「だらしないですねぇこれくらいで。ちゃんと鍛えてますか?」

「…ほっとけ。」

なんだか情けなくなりそのまま本の山に埋まっていると背中の錘が降りた。
俺は本の山から這い出し体を伸ばした。

「僕の部屋で破廉恥な行為は慎んで下さいね。」

本を開きながら天蓬がとんでもない事を言い始めた。

「そんなコトしねーよ!」

したつもりも無い。
を助けようとした…ソレだけ。だけどあの時泣きそうになったがやけに可愛いと思ったのも事実で、抱きしめたいとも思った…。
って、まさか!?そんなこと…ねーな、見なれないもん見たからちょっかい出したくなっただけだ。
などど自分の行動に理由をつけていたら天蓬がにっこり笑って大工道具を俺の目の前に差し出した。

「まぁ罰としてこの本棚直してくれますよね?捲簾大将?」

天蓬の笑顔を綺麗という奴がいる。間違ってはいない。
ただ、綺麗であればあるほどその怒りは深いのだということを何人が知っているのか…。
オレは素直に片手を上げその任務を請け負う事を了解した。
それにしてもなんで天蓬がここまで怒る必要がある?





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はい、一応これでこのお話は終了w
元々いろいろな話を書いててそう言えばこの人が○○してる時、他の人って何してるんだろうって思う事が多くて、それを書いてみたのがこの話。
にしてもあんなに鍛えている捲簾が押し潰されてしまうほどの本って一体何なんでしょう!?
まぁ天ちゃんの所にある本だから分厚い本もいっぱいあるんでしょうが・・・ちょっと謎(笑)